ファイルを1つ消すだけの作業が、できませんでした。
道具のほうが動かなくなっていたからです。ところが、その原因を説明する段になって、AI自身が製品の仕様を間違えて説明しました。間違えたのはClaudeです。
不具合そのものはCowork固有の話です。ただ、そのあとに起きたことは違います。AIが、自分の動いている環境の仕様を、確かめずに説明した。この形は、どのAIを使っていても起こります。
症状——「Workspace unavailable」しか返ってこない
Cowork(Claudeのデスクトップアプリ)には、接続したフォルダに対してコマンドを実行できる仕組みがあります。ファイルを移したり、名前を変えたり、まとめて処理したりするための機能です。
これを呼び出すと、毎回この応答が返ってきました。
Workspace unavailable. The isolated Linux environment on this device failed to start.
(作業環境を使えません。この端末の隔離Linux環境が起動しませんでした)
一度きりではありません。時間を置いても、アプリを終了して立ち上げ直しても、同じでした。
壊れているのは一部だけ、という分かりにくさ
厄介なのは、全部が止まったわけではないことです。
| 機能 | 状態 |
|---|---|
| フォルダの一覧を取る | 正常 |
| ファイルを取り寄せて読む | 正常 |
| 編集した内容を書き戻す | 正常 |
| 端末の情報を取得する | 正常 |
| コマンドの実行 | 起動せず |
読み書きは通常どおり動きます。そのため、作業をしていて途中まで気づきません。止まるのは、コマンドを使う場面に来たときだけです。
実際に困ったのは、次のような作業でした。
- 不要になったファイルを、退避用のフォルダへ移す
- ファイルの名前を変える
- ファイルを削除する
- フォルダ内を横断して検索する、まとめて処理する
読み書きの機能には、移動も削除も含まれていません。読めるのに、動かせない。この状態になります。
調べたら、既知の不具合だった
公式の開発リポジトリを検索したところ、同じ症状の報告が8件以上ありました。いずれも未解決のまま開いています。
| 報告 | 内容 |
|---|---|
| #57968 | Windows。仮想化関連の3つのサービスをすべて自動起動にし、稼働も確認し、再起動もしたが直らない |
| #56145 | Windows。6セッション以上、数週間ずっと失敗。2026年4月29日のアプリ更新以降に発生 |
| #55649 | Windows。初回の起動から一度も成功していない |
| #68030 | macOSでも同じ症状 |
#56145の報告者は、手元に仮想環境が入っていないことを確認したうえで、これはローカルの設定ではなくサービス側の問題だと結論しています。
公式の回答も、回避策も、どの報告にも付いていません。つまり、手元でできることはありません。ここまでは、調べれば分かる話です。
ここで、AIが仕様の説明を間違えた
問題は、このあとでした。
Claudeは、状況を説明する流れで、こう述べました。「この作業環境はクラウドで動かしているときに使うものなので、パソコン側で動かす形を選べば、この問題は関係なくなる」と。実行場所を選ぶ画面がある、という前提の説明です。
これは誤りでした。
指摘を受けて公式のヘルプを調べたところ、こう書かれていました。
Coworkはリモートで、Anthropicのサーバー上で動作します(ベータ)。クラウドとローカルのどちらで実行するかを選ぶ選択肢はありません。
選択肢そのものが存在しませんでした。存在しない画面の操作方法を、それらしく説明していたことになります。
仕様は、2026年7月8日に変わっていた
なぜ間違えたのか。仕様が変わっていたからです。
Coworkは2026年7月8日に、デスクトップ専用からクラウド基盤へ移行しています。ウェブとモバイルからも使えるようになりました。
- 作業はAnthropicのサーバー側で実行される
- 端末を閉じても、処理は続く
- 新しく作る定期タスクはクラウドで動く。移行前から動いているものは手元で動き続け、端末の電源が必要
- デスクトップアプリの役割は「じっくり作業する場所」。手元のファイルとブラウザに直接届くのが、その理由
移行より前の作りでは、実行場所という考え方そのものが違いました。AIは、その古いほうの知識で説明したことになります。
ここが、この記事でいちばん書いておきたかったところです。AIは、学習した時点の知識で製品の仕様を語ります。そして製品の仕様は変わります。しかも今回は、自分がその上で動いている環境の話でした。使っている本人でも、間違えます。
「機能が無い」と「道が塞がっている」は違う
もうひとつ、説明の粗さがありました。
最初、Claudeは「ファイルの移動と削除はできません」と説明しました。使える機能に、その項目が無いからです。
ところが公式のヘルプには、こう書かれています。
Coworkは、ファイルを完全に削除する前に、必ず明示的な許可を求めます。許可のダイアログが表示され、「Allow」を選ばないと削除は実行できません。この確認は、「自動承認」や「すべての承認をスキップ」を選んでいる場合でも表示されます。
削除の機能は、あります。許可の出し方まで決められています。無いのは機能ではなく、いまその機能に行き着くための経路でした。
この2つは、聞く側にとって意味がまるで違います。
- 機能が無い——待っても解決しない。別の方法を探すしかない
- 道が塞がっている——復旧すれば使える。いまは手作業で回避すればよい
前者として受け取れば、運用の組み立てから変えることになります。実際には、後者でした。
AIに製品の仕様を聞くときに効く3つ
今回のやりとりで効いた指示を残しておきます。特別なものではありません。
- 「それは、いつ時点の仕様ですか」——学習した知識か、いま調べた情報かを分けさせます
- 「公式のヘルプを検索して、確かめてください」——出典に当たらせます。今回はこれで、説明が誤りだと分かりました
- 「機能が無いのか、いま使えないだけなのかを、分けて説明してください」——対処の分かれ目になります
いずれも今回はClaudeで確かめたものです。ただ、手元の知識だけで答えを組み立てるという形は、AIの答え方に共通します。調べたうえでの回答かどうかを聞くやり方は、以前にも同じ場面で効きました(AIの「できません」は結論ではない——「検索して調べて」の一言で解決した、Claudeのファイル更新不具合)。
製品の仕様は、AIが答えやすく、しかも間違えやすい領域です。変化が速く、学習した知識が古くなりやすいからです。手順を説明されたときに、その画面が本当にあるのかを一度疑ってみると、遠回りを減らせます。
確認していないこと
- 作業環境が起動しない原因は、特定できていません。報告されている内容から、サービス側の問題である可能性が高いというところまでです
- 復旧の見込みは分かりません。数週間続いている報告があるいっぽうで、日をあけて直った例も見当たりませんでした
- 許可ダイアログが出る削除機能を、実際に動かして確かめたわけではありません。公式ヘルプの記述に基づいています
- クラウド移行の内容は、公式ヘルプと報道で確認したものです。プランや契約によって、使える機能が異なる可能性があります
- ほかのAIサービスで、製品仕様の説明がどの程度正確かは比べていません
